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ハラスメント

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場合によってはクレーマーに謝罪したほうが早く解決するケースも

島田 直行 弁護士:島田 直行 投稿日:2018.05.13

 どこでも「クレーマーには毅然な態度でのぞみましょう」と書いてあります。不当な要求に甘んじて応じてしまえば要求はさらに泥沼化。毅然な態度で断る勇気が必要ですがなかなかそうもいかないのが現状です。すごい剣幕で言い寄らせてしまうと場をおさめるために「すみません」と言ってしまうこともあるでしょう。「しまった。謝ってしまった」とさらに自分を責める人もいます。ですがとりあえず謝ることについては気にすることはありません。むしろカタチだけで謝った方がスムーズなときもあります。

謝罪しても当然に事実を認めたことにはなりません

 「謝罪をしたら自分の責任を認めたことになる。だから絶対に謝罪をしてはならない」と誤解している人が少なくありません。これは大きな誤解です。

 そもそも日本人の場合には、相手を思いやって自分のミスに関係なく「すみません」と口走ることがあります。それをもって当然にある事実を認めたということになれば誰も怖くて謝罪することなんてできません。そんなギスギスした社会で誰も暮らしたくないでしょう。

 とくに相手がクレーマーでプレッシャーをかけてきたときにとりあえず「すみません」というのは仕方のないことです。そうしないと場がおさまらないということもあるでしょう。「謝れ」と言われ「謝れません」という押し問答では埒が明かないというときも当然に予想されます。クレーマーは、自分が精神的に優位に立ちたいがために相手に執拗に謝罪を求めてきます。どんなものでも謝罪をさせれば自分が一段上のポジションに立つことができるからです。

 かつて経験したことでは謝罪の念書を書かされたスタッフもいました。「すべて自分の責任であって賠償します。申し訳ありません」という文言の念書に書かされていました。「そんな書面をなぜ書くのか」と非難するのは簡単ですが当事者としては恐れるあまり仕方のないときもあります。書面=絶対的な効力と誤解している人がいますが必ずしも効力があるとはかぎりません。たしかに書面は効力がありますがあくまで「きちんとしたプロセスを経て作成された」という前提があります。恐怖心からやむなく作成されたものには効力を争うことができます。

念書などを書いたときにはすぐに弁護士名で内容証明を発送してください

 クレーマーから言質をとるようなカタチで念書なりの作成を求められやむを得ずサインしてしまったとしましょう。このとき最悪の対応は、会社に黙って自分ひとりでなんとかしようとすることです。その発想にいたった時点ですでにクレーマーに飲まれています。いったん飲み込まれてしまうと自分が飲み込まれているのかどうかすらわからなくなるから怖いところです。

 自分の本意に反して謝罪や念書の作成などをしたときには、すぐに弁護士に相談するべきです。そもそも事実関係もはっきりしない段階で謝罪や念書の作成を要求すること自体に問題があることが少なくありません。謝罪というのは、事実関係が確認できて自分のミスがはっきりしたときに道義的になされることが原則です。相手から一方的に「謝罪しろ」と言われて対応するものではないはずです。この原則が「相手もお客様だから」ということで崩れてしまっているのがクレーマー対応の現状です。

 このような場合には、「あれは自分の本心ではない。あなたからのプレッシャーがあったからだ」とすぐに通知することがポイントになります。時間が経過するほどに本心に基づいて作成されたものとの印象を与えることになります。確実に相手に通知内容を通告するために内容証明郵便にて発送するべきです。しかもできればクレーマー対応を請負っている弁護士の方に依頼して対応してもらってください。自分で対応するとなると「どういう言葉にするべきか」など悩んでしまってクイックレスポンスができなくなります。悩む時間がもったいない。弁護士としてもできるだけ早い段階で依頼を受けた方が対策をとりやすいです。

 こういった書面は、事後的に訴訟における証拠として利用することがあります。例えば相手が自分の請求の根拠として念書なりを提出したとしても「この念書は威迫されて作成されたもの。記載後すぐに通知している」として内容証明を証拠としてだすことになります。口頭で「あれはこわくて書いたものです」と説明するよりも効果的です。

謝るときにはいっそ肩すかしのようなパターンがベストです

 立場的にどうしても謝罪しなければならないときもあります。事実関係があやふやでもとりあえず「すみません」といわないと収拾がつかないときです。クレーマー対応は、イメージとして合気道のようなものです。相手が勢いよく言ってきたからといって同じような対応をしていたらさらに拡大するときもあります。こういうときには議論せずにいっそ「すみません」とさらりと回答してしまうのもひとつです。

 つまるところ肩すかしというのは議論するうえでもっともやりにくいパターンのひとつです。「こう言われたら、このように切り返そう」と肩に力を入れている人に対してはとくに効果的です。これはクレーマーに限ったことではなく一般の交渉において広く言えることです。「おいおいなんだ。不気味だ」というのを相手に与えることができます。交渉になれていない人ほど交渉の目的を勝負に勝つことと設定してしまいます。交渉の目的は合意して解決策をみいだすことです。

 こういう謝罪をするときには、クレームの事実ではない曖昧な事実について謝罪をするようにしてください。例えば「連絡が遅くなりすみません」「ご不快な思いをさせてすみません」などです。こういった言葉には、はっきりいって意味はないです。大事なのは、「すみません」という言葉を相手に伝えるということです。

 「すみません」という言葉を耳にすることでクレーマーでなければ急にトーンダウンする傾向があります。「この人は話を聞いてくれる」という印象を相手に植え付けることができるからです。たった一言で印象をガラリと変えることができます。たいていクレーム処理が上手な人は、聞き上手で謝罪の言葉をうまく利用しています。

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