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ハラスメント

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なぜ企業はわかっているリスクにすら予防ができないのか

島田 直行 弁護士:島田 直行 投稿日:2019.07.07

 弁護士は、基本的に発生したトラブルの解決を生業にしている。時間軸でとらえれば、リスクに対して事後的に対応する。こういった事後的な対処法は、コストがかかりすぎる。ここでいうコストには、損害賠償金や弁護士費用といった経済的な負担もあれば裁判に翻弄される精神的な負担といったものも含まれる。資源の限定された中小企業にとって事後的処理は、相当の負担になってしまう。「トラブル対応のコストでさらに悩まされる」という笑えない結末すらある。こういった無益なコストを防止するためには、事前の予防策こそ必要である。

 社長あるいは管理職であれば、「リスク」という言葉の含まれたセミナーを受講した経験もあるだろう。自然災害リスク、労務リスクあるいは情報漏洩リスクなどテーマも様々だ。それほどリスクという言葉を耳にしているのに「いい話を聞いた」で終わっているケースも少なくない。いくら学んだとしても実行しなければ意味がない。知行合一である。頭で理解しつつもリスクの事前対策がなかなか具体化しない理由は3つある。

 まず経営資源に余裕がないことである。中小企業の経営は、経営資源とされる人、モノ、カネ、情報がいずれも限られている。社長には、「あれもこれもしたい」という気持ちはある。それでも現実的に投じられる資源から諦めざるを得ない場面も珍しくない。とくにリスク対策は、売上数字に即効性をもたらすものではない。社長は、目の前の売上に直結するものに資源を投じたくなる。例えば保険は、リスク対策を検討するうえで不可欠の武器。その意味で保険料は、リスク対策に対する投資といっていいだろ。それにもかかわらず保険料について経費処理の可否にしか興味を持てない社長もいる。


 次の理由は、リスクに関するアドバイザーが少ないことである。企業のリスクについて取り扱う専門家あるいはコンサルタントはたくさんいらっしゃる。財務リスクを扱う税理士の方もいらっしゃれば、事業性リスクを扱うコンサルタントの人もいらっしゃるであろう。こういった方は、すぐれたアドバイスを提供してくださるだろうがあくまで特定の分野についてである。財務リスクを扱う方が労務リスクまで扱うことは通常できない。こういった方のアドバイスを依頼するときは、社長が特定の分野のリスク発生を感じているときである。さりとて事業におけるリスクは特定の分野だけで引き起るものではない。予想もしていないところから勃発するからこそリスクは危機になってしまう。しかもリスクは、他のリスクを連鎖的に呼び起こす。社長は、特定の分野ではなく事業の全体に睨みをきかさなければならない。社長にとって必要なのは、中小企業の全体像をリスクという観点から語ることができるアドバイザーである。こういったアドバイザーが圧倒的に少ないのが現状である。社長としても教えてもらえないのだからわかるはずがない。


 最後の理由が緊急性と重要性の優先関係を誤解していることである。優先性の判断においては、緊急性と重要性という観点から判断していくことが多い。このとき本来であれば、①緊急性高・重要性高②緊急性低・重要性高③緊急性高・重要性低④緊急性低・重要性低という順番で対応するべきである。
しかしながら実際には、①緊急性高・重要性高③緊急性高・重要性低②緊急性低・重要性高④緊急性低・重要性低という順番で対応してしまいがちである。これは緊急性の高いものについては、重要性が高いものと誤解してしまうからである。緊急性が重要性に勝ってしまうということだ。結果として目の間の作業に追われてしまいリスク対策のように緊急性が低く重要性が高いものが後手になってしまう。
 リスク対策については「いつかやろう」ではいつまでもできない。実際の問題になって「やっておけばよかった」と後悔することになる。リスク対策は、リスクが現実化していないときに取り組むからこそ意味がある。

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