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ハラスメント

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クレーマー事例:弁護士が目の当たりにした”美容”と”介護”のクレーマー

島田 直行 弁護士:島田 直行 投稿日:2019.12.18

これまで100名を超える悪質なクレーマーの案件に対応してききた。相談だけで終わった事案を含めればもっとあるだろう。本の前書きにでも記しているが好きでクレーマー案件をするようになったわけではない。目の前の事案をぼろぼろになりながら解決していたらしだいに「クレーマー案件をする弁護士」ということで事案が集まってきたのが現実だ。

脱線するが弁護士の扱う分野というのは、おそらくこういった偶然と経験の積み重ねで生みだされるものだろう。弁護士になりたての頃から「この分野でやっていこう」と決意して実現するのはなかなかケースとして少ないのではないかと。大都市では可能であっても地方都市ではなかなかできないだろう。

そんなわけで思い起こせばいろんなクレーマーに対応してきた。毎回相談内容を聞くたび「そんなこと言ってくる人いるの」と耳を疑うばかりだが相談者の顔色を見れば「本当につらいんだろうな」としみじみ感じいる。ここでは過去に対応した案件でもとくに印象に残っている事例を紹介しよう。内容については守秘義務に抵触しないよう適宜修正と変更をしているのでご了解いただきたい。

クレーマー事例【美容系】:大声で詰め寄る女性クレーマー

美容というのは、「美しさ」というイメージを提供するビジネスゆえ顧客の期待値も高い。顧客の期待値が高いということは、同時にクレームにもなりやすいということだ。実際に事務所には美容関係者からの相談も寄せられている。ちょっとしたクレームであれば、謝罪などで大抵終わる。もっともなかには「これは」というものもある。

この事案も美容関係の会社で高級路線を売りにしていた。ある方の紹介で「完全にグダグダになっているから至急動いて」と相談された。

その人は、ある雑誌を見た新規の女性客だった。予約のうえ来所されたのだが受付時に対応を間違って30分以上スタッフも来ないまま待ちぼうけの状態になっていた。異変に気が付いたスタッフが声をかけるといきなり「予約しているのになんでまたされるの。私を何だと思っているの。どうしてくれるの」などと大声でまくしたてるように話しだした。静かな空間に一気に緊張が走る。

とりあえず店舗リーダーの判断で謝罪をして改めて連絡をさせていただくということでいったん帰宅していただいた。それからというもの毎日のように電話とメールがなされているようになった。こちらの非を認めて繰り返し謝罪をしていた。対応していたスタッフもさすがに疲労困憊でしまいには「経営者をだせ。弁護士の知り合いもいる」というようなことにもなってきた。そこで収拾がつかなくなって事務所への相談となった。アドバイスした書面を一通だしたらぱたりとクレームがなくなった。

彼女にとっては、「待たされて時間が奪われた」ということよりも「自分が特別扱いされていない」ことが耐えられなかったのかもしれない。優越感を味わいがゆえに執拗なクレームをしてくる人もいる。

クレーマー事例【介護系】:名誉毀損を訴える男性クレーマー

介護の分野もクレーマーの多い分野である。せっかく「高齢者のために頑張ろう」と感じてもクレーム対応に疲弊して退職していく人もいるようだ。

介護事業所からの相談で圧倒的に多いのは、利用者ではなく家族からの不当な言いがかりだ。とくに普段は施設に顔もださないような子どもがなにか施設の側にミスなどがあると鬼の首を取ったように言ってくることがある。ある経営者は「こんなに一生懸命に利用者さんのためにがんばってきてなんで家族にあそこまで言われないといけないのでしょうか。もうやめてしまいたい」と口にされたこともある。ひどい話。

ある介護施設で利用者がスタッフに対してセクハラ的な行為にでることが続いた。最初は施設も「高齢者のすることだから」ということにしていたがあまりにも続いた。利用者にやんわり説明をしてもかえって反省もない。仕方なく家族に相談してなんとか協力してもらうことにした。

だが家族に相談すると「失礼な。言いがかりだ」というものだった。自分の家族は正しく施設は間違っているという前提でなにも相談には応じてもらえなかった。むしろ施設に対しては「名誉棄損だ。どうなっている」と息子とされる男性が声を荒げるようになった。それからというもの息子は施設のあらゆることに対して「説明責任があるだろ。説明しろ」と言っては施設を一方的に批判した。施設としては信頼関係ができないと判断して他の施設のことも提案したものの「ここで死ぬまで面倒みてもらう」と言って話が進展しなかった。そこで相談ということになった。

人は、「自分が正しく周囲が間違っている」という確信を抱くと冷静に見ることができない。周囲の人がもはや人ではなく物として見えてしまうのかもしれない。

この男性は、「誰が費用を支払っているのか」となんども口走っていたそうだ。施設としては、「あなたではなく利用者さんが支払っている」と反論したい気持ちもあったようだが言えばさらに逆上されてしまうことが目に見えていたためにひたすら耐えていた。

サービスというのは、費用さえ支払えばなんでも言えるというものではないであろう。でも実際には、費用さえ支払えば他の人関係なく自分の思うとおりに誰かを動かせると誤解している人がいる。

クレーマー事例【社内】:「自分の子どもは悪くない」とまくしたれる親クレーマー

人手不足もあって採用について十分検討することなくとりあえず採用してトラブルになるケースが増えている。労働契約をいったん締結すれば会社にあわないからという理由だけで退職してもらえるわけではない。退職で納得してもらえないから解雇など通常できるものではない。実際不当解雇となって多額の解決金を支払うことになるケースもある。だからこそ採用には十分気をつけるべきだ。

最近では新入社員の対応で頭を抱える管理職の相談が増えている印象がある。勤務時間に遅刻するなどまだいいほうで連絡もなく欠勤ということもある。「もはや働くことの意味すらわかっていないのか」と嘆く管理者もいた。

ある福祉の会社では若い女性を採用した。彼女は、挨拶もできずに勤務中もひっそりスマホでゲームをしていた。管理者も「まだ若いから」ということでやんわり指導していたもののまったく伝わらなかった。勤務態度にも問題があったので管理者は、問題行為をはっきり指摘して改善を求めた。

すると両親がでてきたうえに「うちの子がパワハラにあった。会社としてどう責任を取るのか」と言い始めた。両親は、何らの連絡もなく会社に来ては責任者との面談を求めるようになった。電話もなんども繰り返しかけてきた。いくら彼女の問題点を指摘しても「そんなはずはない。娘に問題があるはずはない」という一点張りで問題の解決にはならなかった。「すでに弁護士にも相談している」とまで会社は言われてしまい相談となった。

このように最近の労働問題では、本人ではなく親が前面にでてくることが珍しくない。親にとっては、どんなときも「かわいく正しい子」でしかない。冷静に話を聞くことができずにクレーマーになってしまうことがある。

 

 

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