後継者・幹部育成
話題の「ジョブ型雇用」とはいったいなにか
弁護士:島田 直行 投稿日:2020.09.14
新型コロナウィルスは、日本の働き方を大きく変えるきっかけになりました。正確には既存のシステムに齟齬が生じていたもののなんとなくごまかしていたらコロナでごまかしすらできなくなったというものかもしれません。そのなかで大手企業を中心に新しい雇用形態としての「ジョブ型雇用」が提唱されるようになりました。日経ビジネスでも特集が組んでありましたね。なんとなくわかるようでわからないジョブ型雇用について整理しておきましょう。
ジョブ型雇用の特徴は「制限されること」
ジョブ型雇用とは、職務定義書(ジョブ・ディスクリプション)にて業務内容などが細かく限定されていることが特徴とされています。「誰が何をどこまでするのか」が契約によって明確にされているというわけです。欧米では、こういったジョブ型雇用が多いと言われています。これに対峙するのがメンバーシップ型雇用と呼ばれるものです。職務内容を制限することなく雇用することです。日本は、職務内容を制限することなく採用することが一般的でしょう。
ジョブ型雇用は、いわゆる「仕事に人を割りつける」という発想です。「その人」ではなく「その人の具体的な技術」にフォーカスしています。そのため契約で課せられたものにたいして一定の結果をだすことが必要になります。これに対してメンバーシップ型雇用は、「人に仕事を割りつける」という発想です。「その人の具体的な技術」ではなく「その人」にフォーカスしています。ある意味では本人の潜在能力を信じて採用するようなものです。
日本ではメンバーシップ型雇用をベースに必要に応じてジョブ型雇用を利用してきました。日本人は、やはり人をベースにした経営を求める傾向があるのでしょう。こういった歴史的な経緯を学ぶには、こちらの本がベストです。「だから欧米型がいい」という表面的な意見ではなく価値中立的に双方のスタイルとデメリットが指摘されています。
ちなみにジョブ型及びメンバーシップ型という概念のスタートはこちらの本という紹介がなされています。
ジョブ型とメンバーシップ型の相違点の中心は人事裁量の広さ
ジョブ型が急速に評価されるのようになったのは、専門的知見を確保して短期的に結果をだすことが求められるようになったからです。企業にはもはやゆっくり社員を成長させて会社全体を任せるという余裕がなくなりつつあるのかもしれません。というか社会全体のスピードが速くなりすぎています。どこかで是正しないと格差や貧困といった資本主義の弊害がいっそう激しくなります。
例えばジョブ型の場合には、学生さんの採用はどうなるのでしょう。日本の場合では、新卒=ゼロとして「いかに育てていくか」がポイントになります。ある意味ではゼロであることは当然であっていきなりなんらかの結果をだすことまで求められるわけではないです。ですがジョブ型の場合にはそうはいかない。「企業においてなにができるか」がすべてだからです。結果として欧米では大学在中に平均して14ヶ月のインターンなどを経験して「自分のスキル」を磨くそうです。一体何のための大学なのか。。
ジョブ型とメンバーシップ型では、人事評価の仕方も賃金の決め方も違います。いろんな相違がありますが圧倒的に違うのが企業としての人事裁量です。
日本的雇用慣行としては、年功序列、終身雇用及び厳しい解雇制限などが指摘されます。いずれも企業にとっては、相当の負担になっています。「こういった古いスタイルではグローバル経済に太刀打ちできない」としてジョブ型がもてはやされるようなったという側面もあります。ですが企業としては、こういった負担を背負う見返りとしてかなり広範囲な人事裁量権を持っています。「では来月から福岡で」「来年からは経理部門へ」というのはあたりまえのように感じるかもしれません。ですがこれらはあくまでメンバーシップ型雇用だからこそ可能なものです。ジョブ型雇用では契約に定められたことをこえて指示をだすことはできません。なんだか窮屈に感じませんかね。
中小企業は、限られた人員のなかで経営をしています。専門性は欲しいですが専門性だけで経営ができるほどの余裕はないです。変化する環境に合わせて人員の配置を換えていくことこそ柔軟で勝てる組織と言えるでしょう。柔軟性を維持するのであればやはりメンバーシップ型雇用を基本に据えるほかないような気がします。
それに僕個人としては、年功序列や終身雇用が決して批判されるべき制度であるとは考えられないです。年齢を重ねてパフォーマンスがあがらないからといって見限るような仕事場で一体誰が働きたいと思うでしょうか。「自社ではパフォーマンスが落ちたので新しい職場を探して」というのはやはり経営者のスタンスとして間違っていると考えます。社員としても長年勤めたうえでいきなり転職を求められても対応できないでしょう。「社員を守ろう」「社員とともに成長しよう」というのは変転する時代のなかでは陳腐な響きかもしれません。ですが長く残る思想は、それが本質を突いたものだからです。
双方のスタイルには、それぞれのメリットがあります。ですから「どちらがいい」と安易に結論づけることはできません。どういうスタイルにしても「社員を大事にしたい」というトップの素朴な思いがなければ画竜点睛を欠くということになりかねません。
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