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後継者・幹部育成

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せっかくの事業承継。それなのに親子がけんかしてしまう3つの理由

島田 直行 弁護士:島田 直行 投稿日:2021.05.03

事業承継というのは、先代と後継者が中心になって仕組みを作っていくものです。当然の前提として先代と後継者の歩調があっているものとしてセミナーや出版物が制作されています。ですが現実の経営とは、それほど甘いものでありません。そもそも先代と後継者の歩調が合わずにトラブルになることが圧倒的に多いでしょう。トラブルになる原因は、各社によって異なりますがいくつかの理由として共通するものがあります。

先代が過去の成功体験に引っ張られてしまう

逆説的ではありますが中小企業にとっては過去の成功体験こそが成長の足かせになっているときが多々あります。ひとはいったん「成功した」と認識すると同じことを繰り返そうとします。つまり同じようにすれば同じように利益をだすことができると誤解してしまうわけです。仮に利益が悪化としたとしても「一時的なもの」と自ら説得させて抜本的な改革には至らないものです。あたりまえですが経営環境は時代とともに変化していきます。同じことをして成功し続けるというのは無理な話です。例えば価格ひとつにしてもずっと据え置きというのは本当に利益が現時点でもでているのか怪しいところです。少なくとも自分が想像していたよりもずっと利益への貢献度が少ないということも想定されます。

後継者には、「自分の力で成功した」という実感がありません。ないからこそ「本当に儲かっているのか。これまで通りで大丈夫なのか」と冷静に判断することになります。それがときに先代には自分の実績を否定されるように感じてトラブルになってしまいます。人間は、論理で動くわけではなく感情で動いてしまう存在です。先代としても後継者の指摘が正鵠を得ていることは百も承知です。ですが正しいことを正しく指摘されると言われた側としてはやはり面白いものではありません。先代としても「次の成功のきっかけ」を見いだすことができずに苦労しているがゆえに過去の成功体験を大事にしているわけです。後継者としては、安易に先代のプロダクトを否定するのではなく「時代に合わせて少し変えていきませんか」という提案をする形式でソフトランディングを目指した方がトラブルになりにくいです。

経営者としての体質が違いすぎてしまう

事業というのは、ざっくりわけると製造と販売のふたつにわけることができるでしょう。いかなる高品質な製品を提供しても販売能力が弱ければ数字にはなりません。逆にマーケティングばかりが先行してしまうと「こんなものか」とすぐにマーケットから見放されてしまいます。かつての中小企業は人口増大をベースに「作れば売れる」という時代でした。ですから製造プロセスに注力して「よりよいもの」を提供すれば自ずと売上につながっていきました。ですが現状の日本は、サービス産業化が急速に進んでいます。もはや作れば売れるというものではなくマーケティングの占める意味合いがしだいに増幅しています。

経営者には、職人気質の方と営業気質の方がいます。これまでは職人気質の方が多かった気がします。これは「作れば売れる」という時代の影響を多分に受けてきたからでしょう。こういった経営者の会社はやはり「つくる」ということが文化の基本になっています。これに対して2000年代を過ごしてきた後継者は、すでに社会のサービス産業化を肌で感じています。とくにデジタルネイティブにとっては顕著でしょう。そのため後継者からすれば、「いいものを会社は作っている。でもこれをうまく売らないと意味がない」と考えて工場の現場にいるよりもパソコンや商談にでることに意義を感じるようになっていきます。こういった後継者の姿勢は、ときに先代からすれば「工場をないがしろにしている」というように見えて不安になるものです。もちろん後継者にしてみれば、「今まで弱かったから注力しているだけ。なぜ社長が自分で工場にいる必要がある」という反論になります。これはいずれかが正しいというものではありません。正確には双方ともに正しいのでしょう。正しいがゆえに衝突してしまい致命的な争いになることがよくあります。

家族であるがゆえに本音を話してしまう

相続のトラブルにも共通することですが家族だからこそ本音を口にして感情的な対立になってしまいがちです。先代にしても後継者にしても「この会社をよくしたい」というゴールは同じはずです。ですが同じ問題でも事実の認識も解決の方針もひとによって異なります。これは家族同士においても同じことです。「家族といえども違うひと」と言葉で表現するのはかんたんですがなかなかそうもいきません。「家族だから話せばわかる」と安易に考えて本音をぶつけて疎遠になってしまうケースがあとたちません。ほんのちょっとのボタンの掛け違いなんですけどね。

「話せばわかる」というのはひとつの幻想です。もちろんわかりあえることができればベストでしょうが話をしたがゆえに問題が拡大するのも現実にはよくあることです。無責任に「本音でぶつかればいい」というアドバイスをする気にはなれません。これまでの経験からしても。後継者からは、「どうしたら社長の意識を変えることができるだろうか」とアドバイスを求められることがあります。これに対しては「それは無理。意識なんて変えることができない」と回答しています。それが真実ですから。そもそも外部からのコメントで意識が変わるようなことがあったらこわいです。人間の意識はそれほど単純なものではないです。むしろ先代の方が経験も豊富で清濁併せ呑みながら現在に至るわけですから口先で何かしようとしても大抵反感を買うだけです。こういうときには「それでは教えてください」と言葉で言うのが意外と効果的だったりします。誰しも「教えて欲しい」と言われたら悪い気がしないものです。そもそもひとは「教えたい」という欲求を持っているものです。それが後継者ならなおさらです。子どもであるがゆえに「いかに伝えていけばいいのだろうか。他の社員の目もあるなかで」と悩んでいる先代は少なくないです。だからこそ後継者が子どもではなくひとりの経営陣として頭を垂れて教えを請えばうれしくもあります。後継者にとっては本音は違うかもしれないですが自分の将来と会社の未来のために頭を下げるのも戦略のひとつです。なんでも戦えばいいというわけではないです。

詳しくは本書のなかにも書いています。ご興味があれば是非ご覧ください。

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