後継者・幹部育成
社労士の方が社員から質問攻めにあって身動き取れなくなったときには
弁護士:島田 直行 投稿日:2021.05.12
僕の事務所では、社労士の方から「こういうときどうしたらいいでしょ」という相談を受けることが相当数あります。先生方の立場としては、労使双方にとって中立ということで案件に関わるわけですがときにトラブルに巻き込まれてしまうことがあります。事務所では、先生方向けのメールマガジンを定期的に発行しています。そのなかで参考になるものをリライトしてこちらに書いておきます。今回は、社員から質問攻めにあったときの対処法です。
経営者との同席の場。問題社員から質問攻めにあってしまう
先生方は、弁護士ではないため法律行為について代理人として労働事件における交渉に関与することはできません。そのため先生方は、経営者からの依頼で社員との協議の場にアドバイザーとして参加することになるのでしょう。あくまで経営者からの質問について回答するということです。あるいは手続的なことについては社員に対して直接説明することもあるかもしれません。
社員には、わからない部分について質問をすることができます。冷静かつ適切な質問であれば、先生方としても問題なく回答できるはずです。ですがケースによっては、社員が感情的になってしまい交渉が混乱するときも現実的にはあります。こういうときに先生方から寄せられる悩みとしては、次のようなもの多いです。
① 社員から時間関係なく電話で質問が寄せられる
② 手続に対して繰り返し説明をしても理解してもらえない
③ 回答してもさらに別の質問がいつまでも続く
④ 本人ではなく家族が執拗に連絡をしてくる
こういったケースは、先生方としても「どのように対応すればいいのかわからない」ということで精神的に疲弊していることもあります。経営者からは「うまく対応して」と言われ、社員からは「これはどうなっているのか」と質問し続けられ。まさに板挟みということでしょう。いくら質問をすることができるといっても物事には限度というものがあるはずです。相手の要求に対してすべて即答しないと行けないとなるとストレス過度で倒れてしまいます。どこかで割り切りも必要なはずです。
そもそも質問してくる内容が勝手に解釈した労働法
なかには「自分は労働法に詳しい」という自信からまくし立てるように質問をしてくる方もいます。社員が労働法に詳しいということは、自分の立場を守るためにも必要なことです。正確な労働法を把握されているのであれば、労使ともに法律に基づき冷静に話し合いを展開することが期待できます。
ですが現実には、「労働法についていろいろ知っている」と言いつつもレベルはまちまちです。たんにネットで調べて知識を得たというだけの場合も少なくありません。こういった単発的な知識の場合には、自分にとって都合のいい知識しか集めていないケースが少なくありません。間違った解釈をしながら自信を抱くことになってしまいます。そのため話し合いをしてもいつまでも平行線のままということになります。実際に先生方からは、「中途半端に知識を主張されて間違いを指摘しても理解してもらえない」という泣きの相談を受けることは少なくありません。
こういうときに「あなたの解釈は間違っている」と理路整然と議論をしても問題の解決にはなりません。むしろ「自分の意見を否定された」と認識して、より反発を強めることになるのでしょう。こういうときには、「御意見はわかりました。当方の考え方とは違う部分もあります。いちど弁護士の方に意見を確認されてみてください」と言って他の専門家のアドバイスをもらうことが現実的な対応となります。
なお最近では、先生方の発言が秘密録音されているケースも多々あるので交渉の場における発言はくれぐれもご留意ください。
「わからない」は決して恥ずかしいことではありません
「社員からの質問に即答ができなくて。専門家として情けないです」と落ち込まれていた先生がいらっしゃいました。はっきり言ってまったく問題ないです。むしろ専門家として「わからない」と言えることは正しい姿勢だと考えています。僕にしても未だにわからないことばかりです。そういうときには「それは現状ではわかりません。後日回答します」と明確に伝えるようにしています。
僕は、専門家の条件はあらゆる知識を有していることはではないと考えています。これほど情報過多の時代において知識のすべてを把握することなど現実的ではないです。とくに在野の士業としては、たんに知識を得るためだけに時間を利用することができるわけではありません。士業の目的は、パフォーマンスをあげることであって知識を増やすことではありません。知識はあくまでパフォーマンスの精度を上げるための道具です。これをはき違えると提供するサービスと経営者のニーズのミスマッチがうまれてきます。プロのスタンスとして必要なことは、自分がわかっていることとわかっていないことを区別する能力を育てることです。わからないことは調べればいいだけのことです。
感情的な社員は、質問に対して即答を求めてきます。「専門家なのにわからないのですむのですか」など挑発的な発言をされる方も現実にはいます。言われると嫌ものです。嫌なものですが恐怖に襲われて適当な回答をするのは最悪な一手です。相手の思うつぼになってしまいます。「申し訳ないですがわからないことはわかりません。事後的に調べてわかる範囲で回答させていただきます。即答を求められても困ります」とはっきり回答するべきでしょう。少なくとも僕は自分能力を冷静にわかっているので「わかりません。それで専門家ではないと御批判があるのであれば甘んじてお受けします。ですがわからないことを取り繕うようなことはしません」と答えるようにしています。士業としての真摯な態度とは、そういうものではないでしょうか。
*本メールは社労士の方向けのメルマガをリライトしたものです。
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