
「経験は最良の教師、しかし時に迷いのもとにもなる」
弁護士:島田 直行
投稿日:2025.04.15
何かを経験するというのは、とても大切なことです。実際に体験して得られた知識や感覚というのは、仕事のパフォーマンスにも直結しますし、何よりも説得力があります。やはり、どんな分野においても「経験の有無」は圧倒的な違いを生み出します。
だからこそ私は、どれだけ本を読んだとしても、一度の経験には敵わないと思っています。
ただし、ここで少し気をつけなければならない点もあります。というのも、「経験」というのは、ときに学習の妨げになることがあるのです。
たとえば、法律系の資格を目指す方の中には、修業先の事務所で働きながら勉強している方も多くいらっしゃいます。実務をこなす中で知識も深まり、一生懸命勉強もしているのに、なぜか試験の結果が思うように出ない、という相談を受けることがあります。
これは一見、不思議な現象のように思えますが、私は原因のひとつとして「実務経験の多さ」もあるのではないかと考えています。実務に慣れてくると、物事を実務ベースで考えるクセがつきます。しかし、資格試験というのはあくまでも理論と形式に沿ったもの。実務感覚と試験の求める回答は、必ずしも一致しないのです。
そのため、現場では非常に優秀でも、試験になるとなかなか得点に結びつかないというケースが起こります。努力の方向性がずれてしまっているわけですね。これは誰のせいでもなく、「経験があるがゆえの難しさ」と言えるでしょう。
こうしたズレを修正するには、自分の思考や学習スタイルを、資格試験の形式に合わせてチューニングしていく必要があります。せっかくの努力を無駄にしないためにも、自分の中で「実務」と「試験」をきちんと切り分けて考えることが大切です。
実はこの話、資格試験に限ったことではありません。仕事全般にも通じることだと思います。
経験値が高まると、次第に物事を理屈ではなく、感覚で処理するようになっていきます。たしかにそれは一つの成長なのですが、感覚で理解してしまうと、逆に「体系的に説明する力」が失われてしまうという側面もあります。
私たちは、どれだけ優れた経験を持っていても、それを「言葉」にしなければ、他人に伝えることができません。そして、それができなければ、どれだけ器用な人でも、自分ひとりで完結してしまい、誰かを育てるということが難しくなります。
「人を育てるのは本当に難しい」とよく言われますが、それはこの「経験の言語化」がいかに難しいか、ということに起因しているのではないでしょうか。
ベテランの経営者の方が、部下に安心感を与えるような接し方を自然にしていたり、言葉にせずとも人の気持ちを汲み取る力に長けていたりすることがあります。ですが、その技術や心構えを言語化して伝えることは、決して簡単ではありません。まさに、人生の経験の集大成だからこその難しさです。
だからこそ、経験を「表現」し、「体系化」すること。それができる人は、組織を束ねていくうえでとても重要な役割を担う存在になれると思います。
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