後継者・幹部育成
【後継者の抱える悩み】モチベーションの低い社員を振り向かせるには
弁護士:島田 直行 投稿日:2022.12.02
後継者は、「社員とともに会社を盛り上げたい」と意気込んで社員の処遇改善に着手します。ですが後継者の改革は、たいてい社員からの白けた目線で挫折してしまいます。「なぜ社員のモチベーションがこんなに低いのか」と天を仰ぐようになります。これまで100名を超える後継者と膝をつき合わせて社員のモチベーションについて議論をしてきました。ときには後継者の涙も見ました。このブログでは後継者が社員の士気を高めるために絶対に覚えておくべきことをまとめました。一読していただければ、先人が嵌まってしまったモチベーションの罠を回避して社員を振り向かせることができます。
後継者の焦りこそ社員のモチベーションを下げてしまう
後継者の「自社をよくしていきたい」という焦りこそ社員のモチベーションを下げてしまう主たる要因です。
事務所には、「社員のためにと改革を進めているのに社員がついてきてくれない」という後継者からの嘆きが日々やってきます。後継者は、社員のモチベーションの低さを社員の問題としてとらえています。私も相談を受け始めた頃は、「ではどうすれば社員のモチベーションを高めることができるのか」とさまざまな文献やセミナーにあたり実験してきました。結果として失敗してしまいました。どれもこれも立派なことが書いてあるものの現場では使えない。そこでもういちど現実の職場の状況を自分なりに調査してみました。
そこからわかったのは「最初からモチベーションが低い社員はいない」ということです。あたりまえですが誰しも入社したときがモチベーションがもっとも高いところにあります。それが時間とともにモチベーションが下がってくるわけです。ひとは些細なことであっても積み重なることで「想像と違う」と失望していきます。例えば入社までは手厚いフォローを受けていたのに入社当日には放置されてしまって一気に冷めたから退職したいと申しでてきたひとも実際にいました。つまるところモチベーションについては、「高めること」よりも「下げない」ということがまずもって大事ということです。後継者は、いたずらにモチベーションの向上ばかりに意識を向けてしまうので社員の心に伝わらないわけです。
後継者の空回りを象徴するケースをお伝えしましょう。ある後継者は、ワークライフバランスの向上のために労働時間の短縮や人事評価の設定といった改革を社長に直訴しました。こういった直訴の背景には、社員からの「社長のやり方は古い」という不満を耳にしていたという事実があります。
後継者は、社員のためにということで父である社長に対して苦言を自ら伝えました。これに対して社長は、「それなら社員の意見を聞いてみよう」と動きました。すると社員は「とくに不満などはない」と口を揃えたように回答したわけです。社長は、悠然と「そうか。ではこのままでいく」ということで終わらせました。同時に後継者に対して根拠のない言いがかりをしてきたとして強い叱責がなされました。後継者は、社員に裏切られたような形になりしばらく人間不信のようになりました。
事後的に社長から教えてもらったのですが社長としては社員が後継者に不満を述べていることは百も承知だったということです。おそらく社員が社長の前では不満を述べないということまでわかったうえであえて後継者に対して試練を課したということでしょう。ここで社長が後継者に伝えたかったのは、ひとはなにより実績を信頼するということでした。後継者がいくら立派なことを口にしても、最後に信頼するのは、給与を支払ってきた社長というわけです。その人間心理の機微がわからない限り後継者は裸の王様になりかねません。
後継者は管理方法よりもさきに営業の実績こそ求められる
社員のモチベーションを下げないためには、後継者による早急な組織改革を実施しないことです。これは確実に社員にとって「また後継者が至らないことを」という地獄絵図になります。これについて解説してみます。
後継者は、組織改革というものがたいてい大好きです。本やコンサルタントの話から知った新しい管理方法を金科玉条のようにとらえて安易に導入しようとします。そこには管理方法さえ変更すれば、ひとや組織が直ちに成長して自社の恒久的な繁栄を手に入れることができるという期待があります。そんなはずあるわけないでしょう。
ひとや組織といったものは、成長に時間と地道な努力を要するわけです。何かを変えたからといって直ちに問題が解決したら「なにが起きたのか」と怖いです。ひとづくりをしっかりしている企業が強いのは、他社において簡単には真似できずに自ずと強固な差別化を実現できているからです。いわずもがなですが簡単に実現できるものは簡単に真似されます。
こういった管理方法の変更は、後継者が想定するほどに即効性はでないものです。これは効果を焦る後継者にとってつらく耐えられません。結果として「では別の管理方法をやってみよう。なにごともトライ&エラーだ」と自分を慰めることになります。これは社員からすれば「また思いつきで面倒な作業ばかり増やしやがって」ということになります。
この時代においては組織の管理方法に関する話題が花盛りです。ですが管理方法をいくら追及しても、それだけで事業経営の課題が抜本的に解決するということは通常ありません。
事業経営において大事なのは、管理ではなく売上。もっといえば利益の確保です。経営者の役割は、利益をうみだすことであって素晴らしい管理方法を見つけだすことではありません。管理方法はあくまで利益をだすための手段。目的と手段をはき違えるケースがあまりにも増えています。
後継者が組織論に魅了されるのは、頭を下げる必要がないからです。会社の利益は、すべて会社の外にあります。つまり営業活動の結果としてうまれます。その過程では理不尽なことを言われて頭を下げることもあるはずです。プライドが高い後継者には、これが耐えられない経験となります。これに対して組織内の改革であれば自分の采配ひとつで自由に実行できます。なにも気兼ねをすることがないので楽しいわけです。経営をゲームの延長のように誤解してしまう典型です。
後継者が社員の信頼を得るためにまずやるべきことは、売上をたてることです。営業をして利益をたたきだし実績を作れば、自ずと社員からの信頼につながってきます。
人事評価に手をつけるのは最後でいい
管理方法のひとつとして語られるのが新しい人事評価です。これもまた後継者が魅了されるひとつです。「今までのような感覚に頼った人事評価ではだめだ。もっと客観的なものを」と興奮気味に語る人もいます。正直なところ全然だめですし労働問題を起こしやすいパターンです。
まず前提として理解するべきものは、完全に客観的な人事評価というものはないということです。どこかの段階で必ず人の手が介在するのですからいかに客観性をもたせたとしても人為的な要素を払拭することはできません。しかも人事評価とは社員を個別に評価するものですから各社員によって評価内容は異なります。同一の評価をされるわけではないのですから絶対に不満がでる社員がでてきます。「人事評価を作成すれば社員もより高いレベルを目指す」というのはあまりにも楽観的な思想です。たいていは「自分は正当な評価を受けていない。この会社では無理」となるのが普通です。ですから人事評価に過度の期待を寄せるのは無意味どころか有害です。人事評価がなくてもこれまで事業ができたのであれば、特段の必要性がないともいえます。
むしろ大事なのは労働契約書と就業規則の見直しです。「法律で作成が義務づけられているものでしょ。つまらない」という後継者の意識が見え隠れするところです。就業規則などを「つまらないもの」という程度にしかとらえていないひとが「社員を大事にする経営」なんて語るのはおかしな話です。経営者と社員の基本的なつながりです。この部分をきちんと整理しておくことが労働問題の回避にもつながります。よく言われるようにつまらないものほど役に立つのです。
例えば後継者のなかでいったいどれほどのひとが就業規則のすべてを読みこなしているでしょう。ある30代の後継者は、介護関係ですが圧倒的に採用力があります。この方が最初にしたのが就業規則などの整備です。「バケツに穴があいていたらいくら採用しても意味ないですから」という言葉に圧倒的な経営センスを感じさせます。
制度周りを整えるのと同時に意識して欲しいのが社員ひとりひとりとの関係性です。とかく「組織」という視点で物事を語りはじめると社員の個性が埋没してしまいます。ひとの関係の基本は、1対1のものです。ちょっとした声かけや定期的な面談こそが管理方法の変更よりもよほど効果的です。
「なんとなく華やか」といった幻想に惑わされることなく地に足のついた経営を実現してください。期待しています!
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