ハラスメント
クレームゼロの会社は、それなりに危険な会社だといえる3つの理由
弁護士:島田 直行 投稿日:2017.07.29
今回は、クレームを別の視点からとらえてみます。誰にとってもクレームは耳に痛いことであってできればないに超したことはありません。ですがクレームゼロの会社というのは、それはそれで危険な会社だといえます。なぜクレームゼロが危険なのかについてクレーマー対応をしてきた者の立場から見てみましょう。
クレームが社員によって隠蔽されている
クレームは、どれほど注意して仕事をしていても思わぬところで生じてしまうものです。クレームにならないように注意することは大事なことですがゼロにはならないという覚悟を持っておくことも同じくらい大事です。ですから社長としては、「クレームを減少させつつ発生したクレームにいかに対応するか」という姿勢で経営に臨むことが現実的なところでしょう。
社長が具体的な方針も定めることなく「クレームを減らせ」と太鼓を叩くだけでは社員としても対応ができません。クレーム担当は、ある意味ではもっともストレスの多い業務です。クレームを受けて対応しないといけないのみならず上司からも具体的なアドバイスもないまま早期の解決を求められがちだからです。
人は、「なにをどの手順で」対応するべきかがわかれば動くことができます。ですがなんでもかんでも自分で考えて行動しないといけないとなると場当たり的な対応だけになる危険があります。社長としては、「自分で考えて行動するように」と指示することがよくあります。これはおっしゃるとおりではありますがクレーム対応ではなかなか柔軟な対応もできません。
結果として疲弊した担当者は、クレーム対応を放置するあるいはなかには隠蔽するということにもなってきます。隠蔽がなされると社長の耳にはクレームがあったことが情報として入ってきません。これでは実際にはクレームがあるのにクレームゼロという外形だけが生まれてくることになります。
社長にとってクレームは、いの一番に対応するべきものです。その情報が即時に社長に入らなくなると経営判断を大きく誤り斜陽していきます。強い会社かどうかは、クレームがあってから社長の耳に入るまでの時間の長短でわかります。社長のにらみが効いている会社は、クレームの報告も早いです。ここにあるのは、「クレームは直ちに報告しても大丈夫」という安心感です。クレームが生じたからペナルティがなれば誰も報告しなくなります。
社員の挑戦意欲が減退する
社長は、「挑戦」という言葉が大好きです。社員に対しても挑戦という言葉を語る機会は少なくありません。新しいことに挑戦し続けるからこそ社会に求められた商品・サービスを提供することができます。経営の安定した会社とは、挑戦できる時期に挑戦し続ける会社とも言えます。
ですが新しいことに挑戦してすぐに成功するということはまずありません。挑戦の大半は、失敗に終わっていることは歴史が証明しています。失敗を繰り返しながらやっとうまくいったというのが一般的です。100戦100勝というのは、経営においては成り立たないでしょう。
これはクレームでも同じです。新しいことに挑戦すれば、どうしてもミスなどが生まれてしまいます。経験したことないからです。挑戦した結果としてのクレームというものはあります。そういうクレームに対して社長が「担当者はなにをやっているのだ」と叱責するのは社員の挑戦の意欲を奪うことになります。「挑戦しろと口では言いつつ失敗したらこの扱いか」となってしまえば組織全体のモチベーションは一気に低下します。ひとりのモチベーションの低下は、確実に伝染して組織全体のパフォーマンスを低下させます。
モチベーションの低下した会社は、新規採用も難しくなります。ある新入社員の人がモチベーションの低さに唖然として「出社した当日に退社しようと考えた」と話されたことが印象的でした。優秀な人ほど組織の雰囲気というものに敏感になります。
クレーム対応のノウハウが蓄積されない
企業のなかには、担当者のレベルが高くクレームも迅速に適切に処理していることもあります。こういう会社は、担当者によってクレーム発生率がうまくコントロールされています。
このような会社は、短期的には安定しておりなんら問題もありません。他の社員も安心して事業に挑戦することができるでしょう。ですが企業の長期的な繁栄という観点から見ればまったくリスクがないとは言い切れません。
このように特定の担当者のスキルに依存するモデルでは、その担当者が退職などすればいっきにノウハウが失われてしまうことがあります。つまりクレーム対応のノウハウの承継がなされいないということです。こういった暗黙知の事業承継に失敗したケースは少なくありません。溶接などといった具体的に目に見えるノウハウについては承継の意識も芽生えますがクレーム対応と言った目に見えないノウハウは共有しようという意識がなかなかありません。
企業の成長のためには、仕組みで収益をあげることが必要です。「この人に」という属人的な経営手法では自ずと売上にも上限がでてきます。クレーム対応も特定の人に依存せず組織で対応できるような情報の共有と仕組み作りが必要です。そこで事務所ではクレーマー対応の仕組み作りのコンサルティングを提供するようになったわけです。
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