解雇・退職
コロナ禍における雇い止めのリスクと対応
弁護士:島田 直行 投稿日:2020.06.24
コロナにより解雇・雇い止めが2万人を超えたという報道がされている。とくに問題になっているのは非正規社員への処遇についてだ。企業にとっては、人件費は最大の固定費。コロナによる売上激減のなかでは、事業存続のために人件費の削減に取り組まざるを得ないときもある。そのとき対象になりやすいのが非正規社員の方だ。仕事を失って悩まされている非正規社員の方の報道も目にすることが増えた。安易な削減は雇い止めといった労働事件に展開するリスクもある。経営者は、人件費の削減と雇い止めのリスクのはざまでどのように対応するべきであろうか。
雇い止めの労働契約について解説
議論の前提として労働契約について簡単に整理しよう。会社で勤務すると言うことは、どういう内容であれば労働契約を締結することになる。この労働契約は、期間の長さにおいて無期労働契約と有期労働契約にわけられる。無期というのは、定年まで勤務できるものとイメージして欲しい。有期労働契約とは、1年ごとといった期間が明確にされており継続の場合に契約の更新を要するものだ。
例えば1年間のパート契約となれば、有期労働契約ということになる。そして1年ごとに契約を更新して継続的に勤務してもらう。
日本では、パート社員の方が増えている。日本では、解雇できるケースが著しく制限されている。「契機が悪くなったので解雇」というのが簡単にできるわけではない。そのため企業としては、人員を調整できるようにパートに依存してきたという現実がある。働く側にしても家事との両立をするためにはパートを選択するケースもある。
経営者としては、「景気が悪くなったので今期で契約は更新しない」という選択ができるようにしておきたい。さりとてパート労働者にしてみれば、「いきなりそんなことを言われても」ということになってしまう。このような弱い立場にある有期労働者を保護するために概念されたものが雇い止めというものだ。
コロナ禍のパートやアルバイトの雇い止めに関して
有期労働契約では、会社として契約更新を拒否できるのが原則である。経営者としても、それを前提に事業をイメージしているだろう。さりとて雇い止め法理とは、こういった会社からの契約更新の自由を制限するものである。つまり会社として契約更新を拒否することができなくなるものだ。雇い止め法理が適用されると会社として更新を拒否しても契約は存続し雇用し続ける必要がでてくる。これをもう少し法的な言葉で表現すれば、一定の場合には会社が契約更新を拒否するには、更新拒否について客観的で合理的で社会通念上相当な理由が必要とされている。「売上下がったので更新しない」というざっくりした説明だけでは更新拒否を正当化することはできない。
仮に会社の行為に雇い止め法理が適用されると労働者としては、「労働者の地位があること」の確認を求めて裁判なりをしてくることになる。司法の場合には、労働者有利の判断がなされるのが労働紛争の通常であるため会社の主張が認められるのは相当のハードルがあると覚悟しておいた方がいい。
実際に雇い止め法理の適用が問題になるのは、①反復更新により実質的に無期労働契約と同じような状態あるいは②労働契約の更新につき合理的な期待が認められるような場合とされる。とくにあら素子になることが多いのは、②労働契約の更新につき合理的な期待が認められる場合についてだ。労働者としては、「当然来期も更新されるだろう」という期待が保護の対象になっているようなものだ。
もっとも「更新についての合理的な期待」というのものは労働者の内面であり外部から一瞥してわかるものではない。そこで関連する事情を整理しながら合理的期待が見受けられるを慎重に認定していくことになる。考慮される事情としては次のようなものがある。
- 担当する業務内容
- 更新回数及び勤務してきた期間
- 同種の有期労働者との比較
雇い止めには事前の話合いが重要
こういった雇い止めのトラブルにならないためには、契約更新をしないことを予め説明して納得してもらうことに尽きる。いきなり更新満了期間が近づいて「景気が悪いから」と言われると労働者としても明日の暮らしに困ってしまう。しかも経営者の説明が本当なのか、なぜ自分だけが対象になったのかと疑心暗鬼になる。
まずは契約更新時において「今期が最後で次回の更新はない」と明確に伝えておくべきだ。しかも契約書にもおいてもその旨を明示しておくことが事後的なトラブル回避になる。記載していても「記憶にない」と言われて争いになったこともあるが会社にとって有利な終わり方をした。
もし期間途中にどうしても退職を求める場合には、それに見合うだけの条件を提案することが必要になる。具体的には退職金といった経済的なインセンティブである。こういったフォローがあるからこそ労働者も会社の事情を考慮して退職してくれる。いたずらに会社の都合だけ述べても相手の心には届かない。最悪なのは「今まで雇ってきたのだからわかってくれるでしょ」というスタンスで臨むことだ。もめない案件ですから経営者の上から姿勢でもめることがある。
退職を勧めるというのは大変な労力を要する。くれぐれも注意して労使双方としてなっとくできるものを目指していただきたい。
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