労災事故対応
労災事故の慰謝料。相場観をもっておくことが必要です
弁護士:島田 直行 投稿日:2023.09.01
労災事故が発生すると被害者から会社に対して使用者賠償責任を追及される場合があります。具体的な請求のなかには慰謝料も含まれます。私たちは、普段の生活のなかでも”慰謝料”という言葉に触れますが正確な内容を学ぶ機会があまりありません。「なんとなく」という印象で対応してしまいがちです。そこで今回のブログでは、労災事故における慰謝料について基礎から説明していきます。一読していただければ慰謝料のイメージができるはずです。
そもそもなぜ会社が責任を負担するのか
そもそも論から話をはじめていきましょう。「労災事故は労災保険で対応できるから大丈夫」と安易に理解している経営者の方がいまだ少なくありません。これは根本的に間違っています。
労災保険によって被害者の損害のすべてがカバーされるわけではありません。会社に安全配慮義務違反などの過失があれば、労災保険でカバーされない部分について会社が自ら負担する必要があります。つまり手出しで支払をしなければならないということです。過去には数千万円の負担を余儀なくされたケースもあります。手持資金が不十分な小規模企業体では、労災事故によって事業存続が難しくなることもあります。
ここでひとつ覚えておいていただきたいことがあります。それは賠償額の判断は、会社の規模と無関係ということです。あたりまえといえばあたりまえですが。。小規模事業だから賠償額の負担も小さくなるというものではありません。会社の規模に関係なく損害額として積算されます。ですから売上が1億円未満の企業でも賠償金が1億円になるケースもあるわけです。むしろ事業規模の小さいときこそ事業に与えるインパクトが大きいといえるでしょう。だからこそ事業規模に関係なく労災事故における損害賠償について対策をとる必要があります。
こういった労災保険でカバーされないものの代表格が慰謝料ということになります。
慰謝料とはなにか
慰謝料は、労災事故に関係なく交通事故あるいは離婚などでも問題になる概念です。ざっくりした定義を示せば精神的苦痛に対する賠償ということになります。こういった損害賠償論の前提にあるのは、「損害の公平な分担」という発想です。加害者の行為で精神的苦痛を受けたのであれば、損害の公平な分担としてしかるべき経済的負担を求めるということになります。労災事故についていえば、事故による通院や後遺障害で精神的苦痛を強いられます。その苦痛を経済的に評価して賠償を求めるということになります。
ここで問題となるのが精神的な苦痛をいかにして経済的に評価するべきかということです。細かく見れば①被害者の精神的苦痛の程度②精神的苦痛の経済的評価の双方について問題になります。
精神的苦痛というものは、外形的に一律にわかるものではありません。しかも精神的な負担については個体差も認められます。ですからひとによって慰謝料の金額にしても異なるはずです。
ですが同じような事故であるにもかかわらず被害者本人のストレス耐性の程度によって慰謝料の額が異なるというのも不自然な印象を受けます。つまり慰謝料算定において個体差を考慮しすぎるあまりに「メンタルが強いひとほど賠償金が少なくなる」ということにもなりかねません。これはこれで不自然な印象を受けてしまいます。
そこで通常は、慰謝料についても”相場観”というものがあります。「この程度であれば、このくらいの金額」といったものです。基本となる数字をだしたうえで個別事情を考慮して修正を加えていくといったイメージです。こういったスケールに基づくことで慰謝料がケースによって大きく振れることを防止しています。
労災事故の慰謝料は、たいてい交通事故の慰謝料を基準に算定していきます。具体的には入通院日数及び後遺障害のレベルをベースに算定したものを請求の根拠として利用することになります。通常は入通院期間が長期になるほど慰謝料としても高額になっていきます。
ただし裁判などでは、「その治療行為は必要だったのか」と争われることがあります。これは治療の負担を争うというだけではなく間接的に慰謝料も争うということになります。争点となりやすいものとしては、医師の指示ではなく被害者の意向で治療が継続された場合や整骨院のみ長期的に利用しているような場合です。
相場観をもっておく
それでは最後におよその相場観をもっていただくために参考事例を挙げます。実際には個別の事情によって変動するのであくまで「参考」としてとらえてください。
例えば転倒事故で骨折して3か月の通院をして神経症状が残存したようなケースの慰謝料の相場については、次のようになります。
傷害慰謝料(通院などの慰謝料)73万円+後遺障害慰謝料110万円=183万円
他にも死亡の場合には約2800万円となります。
もちろん当該金額の全額が認定されるとは限りません。被害者にも過失があれば、減額など調整されていくことになります。
いずれにしても慰謝料は、相当の負担になることがあります。こういったときを見越して使用者賠償責任保険など労災保険とは別の民間保険に入ってリスクを分散していくことは必須と言えるでしょう。
慰謝料は、根拠が不明瞭であっても請求することができます。ときに被害者から著しく高額な請求がなされて困惑するケースもあります。そういった要求がなされたときに冷静さを維持するためにも相場観をもっておくことは有意義です。具体的な請求を受けたときには、早急に話を進めるのではなくいったん弁護士に「このくらいの慰謝料は事故態様として妥当なのか」と尋ねてみるべきでしょう。
CONTACT
お困りごとは、島田法律事務所で
解決しませんか?
お急ぎの方はお電話でお問い合わせください。
オンライン相談をZoomでも対応しています。
083-250-7881
[9:00〜17:30(土日祝日除く)]