解雇・退職
解雇と退職勧奨の違いを解説:会社の引き受けるリスクを紹介
弁護士:島田 直行 投稿日:2020.01.16
会社と社員は、法律的には労働契約によって結ばれています。会社が「こういった仕事をしてください」と指示できるのも社員が「給与をください」といえるのも労働契約を締結しているからです。こういった労働契約を解消するのは、解雇あるいは退職ということになります。ですが圧倒的に解雇の方が会社の負担するリスクが大きくなります。そこで解雇と退職勧奨の相違について整理しておきましょう。
解雇ができる場合なんてないと意識しておく方が安全
「あの社員はなんど指導しても改善しない。社長の方針にあわないから解雇したい」という相談は少なくありません。同族企業では、最終的には社長の好き嫌いで人事が決まってしまうことがあります。あたりまえですがこんな好き嫌いによる判断が当然に許されるわけはないです。
解雇は、社員の意思に関係なく一方的に労働契約を解消するものです。社員の生活にも多大な影響を与えるものであるがゆえに厳格に制限されています。「あまりにも制限されすぎている」という企業側からの批判の声も耳にしますが現実的に解雇が許されることはめったにありません。
「能力が著しく低い」「会社に対して反抗的」「周囲との協調性がない」「他の社員を扇動する」などいろいろありますが解雇が認められるケースはほとんどないでしょう。それほど解雇というのは難しいのです。年配の経営者に限って「なぜ自分の方針にあわないのに辞め去られないのか。昔は問題がなかった」と反論されます。実際には昔から解雇は制限されていましたがたんに争いになることが少なかっただけです。現在は権利意識が高くなりネットで知識も得ることができるようになったため解雇が不当であるとして争われるようになりました。
人は、これまでがうまくいとこれからもうまくいくと考えてしまいがちです。ですが過去の延長に現在があるわけではありません。かつてとは労働規制も価値観も全く違うためいつ自分がトラブルの火種になるかわからないと覚悟を決めることが必要です。
解雇に失敗したらどうなるのか
間違って勢いで解雇をされると社員の代理人から内容証明で解雇理由通知書の発行を求められます。これは解雇をしたのであれば発行せざるを得ません。弁護士としては、「解雇をした」という事実を確定させるために求めてきます。ここれから本格的な争いが始まってきます。
社員側としては、復職を求めて争ってきます。このとき本当に復職を内心で求めているかどうかはわかりません。それでもたいていの場合には「復職を認めろ」ということで争ってきます。
よく利用される裁判手続は労働審判です。3回の期日内ので問題の解決を求める制度です。社員の側が労働審判を求めてきた場合には、実際には復職ではなく退職を前提にした経済的解決を求めている場合が多い印象があります。
多くのケースでは解雇に問題があります。解雇が無効となれば復職となります。ですがいったん解雇した社員がまた復職をして職場にいるというのも双方にとっていいこととは限りません。そのため退職をしたことにして会社がある程度のまとまった金額を支払って解決させることがあります。
このとき「〇円支払えば退職してもらえる」という確実なものはありません。あくまで社員が納得しないと退職してもらえません。なかには「お金の問題ではない。絶対に復職する」という社員の方もいます。ここに労働問題の難しさもあります。企業側の代理人として説得をしてなんとか退職を前提に解決できないかを模索します。そこに腕の見せ所もあります。
相場観としては1~1.5年分の賃金相当額を支払うことが多い印象を受けます。相当な負担になりますが復職を認めてともに職場で仕事をしていくことの負担に比較すれば受け入れる経営者が多いです。
退職勧奨は解雇と比較して柔軟な対応が可能
このように解雇はものすごくむずかしい。僕も相談を受けて「これなら絶対に大丈夫です」とは断言しにくいのが現状です。できればどんな事案でも退職で終了させるべきです。
退職には、自分で退職していく場合もあれば会社から説得されて退職する場合もあります。会社から退職を説得されることを退職勧奨といいます。
退職勧奨は同じく会社から動きだすものですが解雇とは違います。根本的に違うのはあくまで社員の同意があることです。「会社にあわないから退職しないか。他の場所でがんばることも考えてみては」と会社が説明をしたうえで「わかりました」となることではじめて退職と言うことになります。この「同意」が大事なんです。
退職勧奨に応じて退職してもらえれば、特段のリスクを会社として負担することは通常ありません。気をつけないといけないのは採用時などにおいて補助金を受けていたときです。条件として解雇や退職勧奨をしてはならないという縛りを受けている会社もあるからです。退職勧奨をするさいには、社労士あるいは弁護士に相談してください。
この同意を得ることができるかどうかに経営者の人格とか技量がでてきます。ただひたすら「退職してほしい」と言われて退職する人はまずいません。むしろ経営者に対する反発を強めることになります。
退職勧奨については、なかなか学ぶ機会がないため無手勝流でやって失敗するケースが少なくありません。執拗にやったら違法と評価されることもあります。
次回はもう少し退職勧奨のあり方について述べていきましょう。
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