解雇・退職
退職勧奨の際にしてはいけない3つのポイント:退職勧奨の言い方も注意
弁護士:島田 直行 投稿日:2019.12.24
社員と経営者の方向性があわないなかで勤務してもらうことは、双方にとって相当の負担になる。社員としても他の場所であれば、能力を活用できる場合もある。もっとも「会社にあわないから」という曖昧な根拠ですぐに社員に退職してもらえるわけではない。むしろ安易に退職勧奨をしてしまってトラブルになるケースが少なくない。社員に退職勧奨する際にしてはいけないことを整理しておこう。
目次
退職勧奨の際にしてはいけないポイント①:退職ありきのスタンス
経営者が「他の職場でがんばってみないか」と社員に退職を勧めすることを退職勧奨という。退職勧奨に社員が応じれば、会社都合退職という扱いになる。
あたりまえのことだが問題があるからいきなり退職ということはできない。前提として指導などもっとソフトな方法をまず実施しなければならない。「これまで口頭でなんども説明してきた」と法廷で述べる経営者もいるが証拠がなければ本当に指導したのかわからない。指導内容は書面で残すなどの工夫が必要だ。
指導を繰り返し実施しても効果がないというときにはじめて退職勧奨を検討することになる。退職勧奨がうまくいくかは、それまでの指導内容による部分が大きい。退職勧奨は退職勧奨前に決まっていると言っても過言ではない。経営者は、事前の対応を疎かにしていきなり退職を勧めるから社員の反対を受けて失敗する。
退職を勧めるのは、誰にとっても心いいものではない。できれば誰かに変わってもらいたいという気持ちになるかもしれないが、これこそ経営者自身がしなければならない。「いやなことだから他の社員にさせる」というのは、他の社員からの求心力を一気に失わさせる。しんどいことだからこそトップが自分で対峙するべきだ。
退職を提案するときには、「退職ありき」というスタンスは避けるべきだ。そういう雰囲気は自然と社員に伝わってかえって反発を受けることになる。あくまで将来に向けた選択肢のひとつとしての退職というものを提案するようにする。腹案もなく「退職しかないから」というのでは誰も納得できない。
退職勧奨の際にしてはいけないポイント②: 問題点を指摘するだけで終わる
とかく経営者がやってしまうのは、対象となる社員の問題点を羅列して退職を勧めることだ。あるサービス業の会社では、対象となる社員があまりにもミスが続いてなんど同じことを指導しても向上にはつながらなかった。経営者としては、「うまくできない」というよりも「うまくなろう」とする努力を感じられずに思うところがあった。そこで経営者は意を決してこれまでの問題点を羅列して理路整然と説明した。結果として退職には応じてもらえず会社内にギクシャクした人間関係だけ残ってしまった。
こういうケースは枚挙にいとまがない。本の中でも書いたのだが人間は論理ではなく感情でこそ動く。頭のいい経営者に限って理路整然と論破すれば社員も同意するはずと夢見がちである。そんなわけない。むしろ反論の余地なく理詰めで言われることの方が精神的にもこたえるものだ。
人事評価全般に言えることだが完全に公平で正確な評価というものはありえない。どうしても評価する者のバイアスがかかってしまう。バイアスがかかっていることを認識していればいいが実際にはそういう意識にはならない。自分の評価は正しく間違っていないと安易に自分を信頼してしまうものだ。
いくら問題点があるとしても評価するべき点もあるのが普通だ。評価するべき点を何も評価しないまま問題点を指摘するだけでは言われた側としても「はいそうですか」という気持ちにはなれない。経営者は、自分に対してうがった評価しかしていないという気持ちになる。
退職勧奨をするさいには、問題点の同じくらい評価している点を指摘するべきだ。多面的な評価をしたうえでの判断であることが分かってもらえなければならない。
退職勧奨の際にしてはいけないポイント③:退職勧奨の言い方に注意する
社員にとって給与は生活の糧だ。いきなり「辞職してください」というのであれば家庭のこともあって応じられないだろう。それにもかかわらずただ「退職してくれないか」と口にするだけの経営者がいる。うまくいくはずがない。
会社として退職を勧めるのであれば、それに見合った譲歩を会社としても実施しなければならない。「これまで十分に社員に指導をしてきた。それでもうまくいかないのは社員の責任だろ」と口にする経営者もいるが本当にそうだろうか。社員にしても一生懸命努力してきたのかもしれない。努力してもなかなか結果がでないということは少なくない。社員としては、むしろ努力していたことをまったく算段してくれない経営者に対する不信感をさらに募らせるだけになってしまう。
退職においては、退職金などの経済的配慮が必要だ。退職しても転職の時期までの生活費が負担にならないような配慮が求められる。
相場としては3カ月~6ヵ月分の給与相当額で妥結することが多い印象がある。ケースによっては1年分以上の給与相当額で妥結することもある。「〇円支払えば退職してもらえる」という明確な基準といったものはない。社員が納得する金額があるべき基準と言えるだろう。それほど退職してもらうというのは容易なことではない。
経済的な支援は、できるだけ経営者側から提示するべきだ。社員の側から求められるときも低額で合意できるケースが多い。「社長も考えている」という印象を与えることが話を円満に進めるうえで必要になってくる。
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