ハラスメント
担当者が泣き出しても終わらないクレームに対してはどうしたらいい?
弁護士:島田 直行 投稿日:2019.12.02
事務所では、コールセンターをもっている会社の依頼を受けることが相当ある。コールセンターは、ある意味では理不尽なクレーマーの温床にもなっている。誰に相談したらいいものかわからないままひたすら耐えることを余儀なくされている人も少なくない。かわいそうな話だ。
そもそも僕がクレーマー対応を事務所サービスのひとつとして本格的にはじめたのはあるコールセンターに勤務する女性からの相談を受けたときからだ。彼女は、30代の柔らかい雰囲気の女性で言葉遣いも丁寧な知的な印象のある人だった。人生ではじめての弁護士を前に緊張しつつも笑顔を取り繕っていた。「いい人なんだろうな。いきなり会った弁護士が僕なんてかわいそうに」と感じさせる人であった。
執拗な電話の繰り返しに泣き出す担当者も
僕は、緊張をほぐすためにいきなり相談内容に触れることはない。たわいないことを言って場を和ませてからはじめていく。彼女も弁護士からの笑い話にはまっみたいで明るく笑いだしてくれた。それが「では問題を」となるといきなり顔を下に向けて沈黙がはじまった。しばらくすると彼女は泣き始めてしまった。
人間というのは、みんながみんな強い存在ではない。泣いてはいけないと責任感のある人ほど自分を追い込んでしまって泣くことを耐える。でもなにかをきっかけに感情があふれだすと演じていた自分にたいするやりきれなさに襲われるのかもしれない。そういうときには「大丈夫だから」とまずは話をしても大丈夫だという安心感を与えることから始める。慣れていないと「なぜ泣くの」と理由を聞いてしまう。人は悲しいから泣くのであって悲しいことに理由はない。
彼女はある中年の男性にターゲットになってしまった。サービスの費用を支払わないので督促したら逆上してきてやってきたというものだ。女性は、「申し訳ないですがお支払いしていただいていないので」とあたりまえのことを丁寧に伝えただけだ。それにも関わらず男性からは「なんで支払いが遅れたくらいで」と反発を受けた。それからというもの彼女をはじめとするコールセンターへの執拗な電話が続いた。どれだけ彼女が丁寧に説明しても大声をだされるばかりで電話越しに泣いたことあるようだ。このケースの珍しいのは、「上司をだせ」ということにならず彼女にばかり集中砲火のようになっていた。
他の担当者に変わってもまったく対応が変わらなかった。彼女としては、自分のせいで周囲に迷惑をかけていることにいたたまれなかったのだろう。そこで上司に相談して事務所への相談ということになった。
担当者が声を上げることが重要
「社会人としてよくやってよる。僕にはこんな丁寧な対応できないよ」とあっけらかんと答えたら号泣された。こういうときに辛気臭く語るのは僕の性格ではない。「ええよ。あとはこっちでやっとくから」といって事件としてお受けすることにした。ただしこのときひとつの条件をだした。それは彼女自身の言葉で「依頼します」と言ってもらうことだ。
依頼するのは法人だから正確には違う。でもあえて彼女に伝えたかったのは、自分の抱える問題は自分で助けてと声をあげないといけないということだ。彼女は、とてもまじめなタイプで自分が弁護士にまで相談することになったことにどこから後ろめたさを感じていた。社長をはじめとした周囲に迷惑をかけたという気持ちもあるようだった。
そういったけなげな精神は大事だけれども精神論だけで生きていけるほど世界は甘くはない。「苦しいときに苦しい」と言えることが大事なときもある。彼女にしても同じような場面に遭遇したときに「いざとなれば弁護士に相談する」ということを理解しておかなければ同じように自分を追い込むことになりかねない。だからこそ自分の言葉で依頼をするということを言ってもらう必要があった。
社長に対しては、「ここまで社員に辛い思いをさせたことを自戒するべき」と伝えた。それでわからないような社長であれば別に受任しなくてもいいわけで。なんとも変わった弁護士かもしれない。
クレーマーからの電話の収束
彼女がハンカチ持ちながら「お願いします」と言ってくれたことが印象深い。「よーし、仕事やっちゃうぞ」みたいな感じでさっさと受任通知をだした。なんというかこういうときには妙な高揚感に襲われてしまう。苦笑
電話対応には応じないことや交渉の窓口は僕が担当することを告げた。さっそくクレーマーからは興奮した状態で電話があったが淡々と対応したら電話すらなくなった。こういう案件はあまりにもあっけない終わり方も珍しくない。クレーマー対応は正直めんどくさい。でも彼女のように少しずつ元気になって職場で頑張っていくのを目にすると少しは社会の役に立つのかなと思う。
このブログをご覧になっている人でもクレーマー対応でしんどい思いしている人はきっといるだろう。でも言いたいのは、助けてと自分の声をだすことだ。声をださないと何も始まらない。うんざりする世界かもしれないけどたまには「おい大丈夫か」と声かけてくれる人もいる。
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